【後編】「私にとってだけ、大切なモノ。自分だけに価値のあるモノを大切にしたい。」
前編はこちら
手放し方の話
山脇:じゃあちょっと話の後半ということで、手に入れる方から移って手放す方の話をしたいなと思います。
haru.:私が苦手なやつですね笑
山脇:ここまでの話を伺っていると、日常生活の中で、haru.さんは自分にとって意味あるものがどんどん生まれて、どんどん手にしていくわけじゃないですか。それを抱えて、手放しはしないのでしょうか。
haru.:そうですね笑
山脇:減ることはないんですかね、基本的に。
haru.:減ることはないですね、本当にないかもしれないです。でもそういえば以前一度、引越しのタイミングで私物を販売したことはあります。
持ち物一つずつにテーマを決めて、何点かをセットにして。例えば「夏一人で海に行くとしたら」とか、あとは、、、忘れちゃったんですけど笑 設定の中で、その時に自分はこういう服装をしたいなというのを考えて、そのテーマに合った本、ポストカードとかも一緒に入れて届ける企画をしました。
だから手放すときも、そんな風に自分の中でストーリーがほしいんです。やっぱり直接ゴミ箱に捨てるとかは感情的に相当難しいですね。
山脇:わかります。ただ、例えば僕の場合だと、そうやって結局捨てられないモノになるんだから、だったら初めから持たないでおこうと、もう新しいもの持つのやめようっていう風に考えてしまうのですが、haru.さんはそういう感覚はないのでしょうか。「新しいモノを手にするのがしんどい」みたいには思わない。
haru.:全然ありますよ。だからまず大きなモノはめったに買わないです笑 家具も必要最低限しか持ってないし、服とかも、最近は減った気がします。それよりも私の場合、キーホルダーとかこまごましたものが増え続けちゃう。けど捨てるのはなかなか難しいですね。手放すことについてこれまでそんなに考えたことなかったです。
山脇:思いの込もったモノほど手放すのはとても難しいですよね。だから、というわけではないんですが、FUKKOKUプロジェクトをやっていて、お客さんから感謝していただくことも多いんです。
持ち主にとっては、一つ一つが大事にしてきたモノだから良い手放し方をしたい。そうなったときに、次のものづくりに役立つとか、役立っていることを実感できるFUKKOKUという仕組みがありがたいと。
haru.:手放すことを考える時に生まれるそういった感情は、モノを生み出す上での宿命ですね。
山脇:僕もどちらかというと溜まっている方かな。引っ越しのたびに箱詰めして、次の家へとただスライドしていくだけですもんね。特に本が大変。
haru.:本は大変です。重いし。ウチは祖父母から親までみんな本の蒐集家なんです。だから実家とかは、壁がずらっと一面本、という部屋が2部屋あります笑
山脇:2部屋!笑
(おじいちゃんの整理中の本棚)
haru.:親には「ウチにある財産は本だけ」とよく言われます笑 だからやっぱり家系的にモノを溜め込むタイプなんでしょうね、やっぱり好きなモノは収集しちゃうのかなと。
今の家にはぬいぐるみもいっぱいあって、それも捨てられないと思っています。ぬいぐるみって感情とかありそうじゃないですか。あいつ捨てやがったぞみたいな。呪うぞって笑
山脇:ありそうですね笑 本とぬいぐるみの違いとしては、本は手放して、誰か次の読み手が見つかれば、またその誰かにとっての価値になりますが、ぬいぐるみはねえ、、、。
haru.:ぬいぐるみは相当厳しいと思いますね。
山脇:古着のぬいぐるみとか買ったことないですもんね。
haru.:ないですね。だから私は、次の人に渡せないようなものばっか集めてます笑
モノを持つ楽しさとは
山脇:前半でも話しましたが、僕は、そういう「自分にとってしか価値のないモノ」を持つことの良さが絶対あると思っています。今はどうしても、色んなモノが売りやすくなっている世の中で、だから売ることを意識しながらモノを買う機会が増えている。
もちろんモノの循環という観点ではそれも良いことなのかもしれません、0か100かの話ではなく自分にとっても完全な答えは出てない話なのですが、やはり、モノと長く付き合っていく中で徐々に育まれていく愛着は育てづらくなっているんじゃないかなあと感じています。
僕の身近な人の例なのですが、ずっと同じメーカーの車に乗り続けている人がいて。ずっと同じ会社のユーザーだと、次の車を買う時に、今乗ってる車を高く買い取ってくれるんですね、状態が良ければ。だから彼はいつもすごく大事に乗ってるんですよ、何年も。最後それを手放して次を買うときにちょっとでも高くできるようということを意識して。
繰り返しますが、大切に乗ること自体が悪いわけではないですし、キレイな状態を維持したい気持ちもわかります、ただ、僕は彼が車に小さな傷がつく度ものすごく落ち込んで気分を下げているところを見ると、複雑な気持ちになってしまいます、そんなんもうレンタカーやんって。
高く売れるっていうことは傷付いたら価値が下がるから、すごく気にしながら、ビクビクして乗っているように見える。せっかく数百万円のお金を出して買ったモノなのに、どこか彼の持ち物のように見えなくて、なんかもったいないというか、、、。
haru.:私自身は、モノを使っていく中で、自分の手垢というか、クセが付いていくのがすごい楽しいタイプです。
また父の話になってしまうのですが、私がこの間誕生日を迎えた時に、父に誕生日プレゼントとして彼が以前から付き合いのある靴屋さんで靴をオーダーさせてあげると言ってくれたんです。父はもうそこでつくってもらった靴を10年くらい履いているそうで。
(友人のYuki Beniyaが作ってくれた帽子。とっても愛着があります)
傷んできたらお直しに出したりとかクリーニングしてもらうとか、そういうことをやってるみたいで、私も楽しみにしてそのお店に行って、いつできますかと訊ねたら、、、3年後って笑 多分30歳の誕生日くらいにはできてると思いますって言われました。
山脇:足の形変わってるかもしれない笑
haru.:本当に細かく足の形を測って、歩き方の癖も測ってきました。実はそういうオーダーメイドのような体験は初めてですごく新鮮でした。
父には「あの人がいればずっと履き続けられるから」と言われて、ああ、そういう人付き合いもあるんだなあと。昔は靴に限らず色んなモノが、個人と個人の関係の中で取引されていて、商売を通じて人間関係があったんだよなあってことをしみじみ思いました。
山脇:いま話しながら思ったのですが、モノを買ってもやっぱりそういうふうに最後は手放す=売る前提になると、なかなか自分の手垢がついてるモノとか、オーダーメイドの靴みたいに、自分にとってだけピッタリ合うモノって、社会にとっては価値の低いものになってしまう。
だからどんどんモノを持つ醍醐味が減っていっているのかなって思ってしまうのですが、でもFUKKOKUプロジェクトなら、そういう、自分にとってだけの手垢とか思いとかをつけながらも、最後は次のモノにできるというか、役に立つことができるように再生できるという点がめっちゃいいなって思いました。
haru.:めっちゃいい。やっぱデニムは毎日履いたりするじゃないですか、丈夫だし、毎日着てそれが自分のシグネチャーにまでなるようなアイテムだなと思います。私も結構デニムを履くからデニムのイメージを持たれることもありますし。そういうアイテムを、次のモノに生まれ変わらせるのはすごいいいなって思いますね。特殊なアイテム、デニムは。
山脇:だからFUKKOKUとしては、手放す選択肢を増やしていくと同時に、同じくメッセージとして、どんどん自分なりに自分のモノを自分色にしていこうよということも強く言っていきたいなと思います。
haru.:次のものづくりに活かされるのなら、穴が空いても良いし、きだれててもいいし、ということですね、メッセージとしてピッタリですね。
これからやりたいこと
山脇:ではいよいよまとめに入っていきたいのですが、haru.さんはこれまで、こういうモノの持つとか手放すについて、自分の価値観を誰かと話したりすることはありましたか。
haru.:職業として服に携わっている人たちと、これからどうしたらいいんだろうねえという話は仕事や企画の話としてたまにすることはありますが、普段はそんなにないと思います。私にとってはけっこうパーソナルな行為というか、あんまり共有しない内容でした。
みんなモノの手放し方とかどうしてるのか気になりますね。買う方はみんなそれぞれ考えがあるんだろうなって想像できるのですが、その辺り聞いてみたいです。
山脇:もしかしたら新しい手段を持っている人が居るかもしれない笑
haru.:私もやりたいことがあって、ガラガラみたいな台車?を引いて、家の前とかでフリマしてみたいです笑 バザーみたいな。小物しかないんですが、、、。
山脇:実際何を販売するのかって難しいですよね。売るってなったらやっぱり、次の人にとって大事にできるモノなのかなって考えてしまうし。
haru.:そもそも本当に売れるものないんですよ笑 親しい人がくれた手紙とかはたくさんあるけど、、、。
山脇:さっきのティッシュとかも笑
haru.:いらないですよね笑 ぬいぐるみも、だから何も売るものがないかも、手放せない。
山脇:そういう、もしかしたら手放し方だけじゃなくて、独自の考え方とかを持ってらっしゃる方が周りに居るかもしれないので、ぜひこの対談も継続して色んな方々にお話し伺っていけたらと思っています。引き続きよろしくお願いいたします。
haru.:とっても楽しみです、お願いいたします!
山脇耀平(やまわき ようへい)
1992年生まれ、兵庫県加古川市出身。
大学在学中の2014年、実の弟とともに「EVERY DENIM(エブリデニム)」を立ち上げ。翌2015年から瀬戸内地域のデニム工場と直接連携したオリジナル製品の企画販売をスタートする。2019年岡山県倉敷市児島に宿泊施設「DENIM HOSTEL float」をオープン。2020年ブランドを「ITONAM(イトナミ)」にリニューアル。
デニム回収再生プロジェクト「FUKKOKU」や、服の完成を1年かけて一緒に楽しむ「服のたね」など、完成品を買うだけではなくみんなが服づくりに関わる取り組みを行っている。
haru.
1995年生まれ。
東京藝術大学在学中に、同世代のアーティスト達とインディペンデント雑誌HIGH(er)magazineを編集長として創刊。
多様なブランドとのタイアップコンテンツ制作を行ったのち、2019年6月に株式会社HUGを設立。
代表取締役としてコンテンツプロデュースとアーティストマネジメントの事業を展開し、新しい価値を届けるというミッションに取り組む。