自分なりの理由でモノを選ぶ経験をー服のたね対談ー

2023年春。今年も「服のたね」メンバー募集の時期がやってきました。2018年にともにプロジェクトを立ち上げ運営するITONAMI山脇と鎌田安里紗さん。

今年は原点に返って運営していきたいと語る山脇。改めて服のたねを始めたきっかけや想い、プロジェクトを通じて伝えたいことについて対談しました。

◆服のたねについて
種からの服づくりを楽しむ参加型のプロジェクト。参加メンバーは自分で育てた綿が入った洋服を手にすることができるうえ、工場見学などを通じてものづくりの生産背景を学ぶことができる。2018年にスタートし今年で6年目、今期はスウェットパンツを製作予定。

ただいま2023の参加メンバーを募集中!

 

山脇:服のたね2023、いよいよスタートです!

鎌田:6年目になりました!

山脇:今年も無事スタートを切ることができました。服のたねについては今までいろんなところでポツポツと話していたのですが、今回の対談で改めて、始めようと思ったきっかけの部分や想いについて話せたらと思っています。

鎌田:よろしくお願いします。

スタートのきっかけ

山脇:それではさっそくですが、服のたねを始めたいと思ったきっかけについて僕の方から。遡ること数年前の2015年、僕と実の弟はデニムブランド「EVERY DENIM」を立ち上げて瀬戸内地域のデニム工場と一緒にものづくりを行っていました。

最初のころからずっと、自分たちが作り届ける製品を長く大事に使ってもらいたいなという気持ちで活動していて、どうやったらそれが叶えられるのかを考え続けています。

基本的な思いは今でも変わらないですが、初期のころ特に大事にしていたのは「つくり手の想いをしっかりと届ける」ということ。どういう人たちがどういう想いでものづくりをしているのか知ってもらいたくて、写真や文章で工場の現場の様子を発信していました。

そのやり方がダメだったとは思いません、ただ、発信をしていく中で、もう少し、自分たちの想いがちゃんと届いているという実感というか、受け手に伝わっているなという感覚を得たかったんです。僕らが投げたボールを受け取ってもらうだけじゃなくて、ちゃんと投げ返してもらえるような、どちらにも主体性がある形を目指したかった。

服って本来は誰にとっても身近なことで、関係のあることなのだけど、なかなかそこに強い関心を持ったりするのが難しい。ましてやどこでどういう風にできているかなんて気にかける機会もない。

でも例えば、洋服の主原料・コットン(綿)は植物なのですが、その植物を自分の手で水やりして育てるという、ごくごく身近な行為、行動を通じてなら、その先のものづくりにも興味を持ってもらえるかもしれない。そう考えたんです。

いきなり遠くの物事に想い馳せるのは難しいけど、目の前の植物の芽が育っていって、綿になって、そこから先ってどうなっていくんだろう。どうやって糸に、どうやって生地になるんだろう、服になるんだろう。そんな形で自然と、洋服の生産背景について小さな関心が湧いてどんどん好奇心を持ってもらえたら理想なんじゃないかなあと。そんなことを当時考えていました。

鎌田:なるほど、かなり重なる部分がありますね。では私の方も。ファッション産業との関わりのきっかけは、2008年、高校生のときに渋谷でショップ店員の仕事を始めたところからです。

店頭に立って服を販売していたわけですが、自分が届けている服がどうやってできるのかは全然知りませんでした。当時は業界として服の値段が急激に下がったタイミング。ファストファッションと呼ばれる仕組みが日本に入ってきて、私が働いていたブランドも価格競争を強いられていました。

私自身もファストファッションの服は買っていましたし、似ているデザインだったら安い方が良いという風潮があって、どんどん安いモノの方に消費者が流れてゆく。でも結局、自分が安くて使えそうだなと思って買った服は2、3回着たら、もういいいかなという感じになってしまって、部屋の中にどんどん服が溜まっていってました。

そうしているうちに何かこれはおかしいぞ、という気持ちが芽生え、働いてたブランドでも販売だけでなく企画の部分も任せてもらえることになり、ものづくりへの意識、生産背景に興味を持ち始めました。そこから主に海外ですが工場さんにも足を運ぶようになりましたね。

ものづくりの現場に行くようになると、すごい面白い!と思うことがたくさんありました。服が1着できるまでに、糸を紡いで、生地を織って、染めて、切って縫って、すごくいろんな知恵と工夫の積み重ねがなされている。

ただ残念なことに、店頭に並んでいる服を見ても、その面白さはほとんどわからない。生産背景の魅力を知らずに服を身につけるのがすごくもったいないと思って、講演やトークイベントで自分が見てきたことを話すようになりました。

でもやっぱり、話すだけでは、あくまで私が見てきたことを、シェアしている、ということに止まってしまう。それで興味を持ってくださる方ももちろんいますが、すぐに忘れられてしまう可能性も高い。

だったら、私自身も自分の目で見て感動したんだから、いろんな人もそこを体感すれば、自分ごととして、自分の出来事として記憶してもらえるんじゃないかと思い立ちまして、“スタディツアー”という形で服の生産地に行くツアーの企画を始めたり、それに続くようにEVERY DENIMとの出会いから服のたねの構想ができました。

山脇:なるほど。そうすると服のたねは、僕らがお互いに、自分たちの見てきたものを伝えようとしている中で始まった取り組みという風にまとめることができるでしょうか。

鎌田:うんうん。そうだと思います。

モノを手にする理由

山脇:今までの自分たちが感じてきたようなことを、自分なりに体験してほしい。別に僕らの見方が正しいわけではないし、みんなそれぞれがもっと自由に考えて、感じられるような環境をつくっていきたい。そういった思いは僕や鎌田さんに共通している点でしょうか。

鎌田:その通りだと思います。服のたねを始める少し前からやっていたスタディツアーでは、毎回25人くらいで服の生産工場を見学し、そこで見たこと感じたことを互いにシェアする時間をつくっていました。夜な夜な振り返り会として、今日どうだった?みたいな形で全員の話を聞くと、やっぱり1人1人違う答えが返ってくる、見ているポイントが違うんですね。それが面白くて。

同じ場所に行って、同じ時間を過ごしても、気になったこととか、印象に残っているポイントは25通りある。しかも互いの話を聞くことで、記憶がより立体的になるような、深い思い出として心に残る気がしています。

本当はそれだけ、みんな感じ取る点が違うんだから、私が感じた一側面のところだけ届けようとしても響かないこともあるかもしれない。だったら、みんながそれぞれ自分の感性で得た、自分の出来事として記憶してもらえた方が嬉しいなあって思うんです。

山脇:すごく共感します。僕の場合はどこまで行ってもモノを届ける側の立場として、自分たちが販売しているモノを手に取ってもらうときに、そういう、買う人それぞれにとっての理由とか納得感とか、そういったものが自分の中にある方が、結果的にそのモノを大事にしてもらえるんじゃないかなという思いがあります。

もちろんモノを届ける上で、どういう思いでこれを作り、どういう思いでブランドをやっているのかなども伝えていく必要はある、それは前提なのですが、ただ、それだけを理由に手に取ってもらいたいとは思わないんです。

言葉にするのがとても難しいのですが、例えば僕が自社製品のことをとても熱量高くプレゼンしたとして、その想いが伝わることはとても嬉しい。それは間違いなく嬉しいです。ただ、手に取ってくれる側の人がその熱量が理由だけで手にした場合、時間が経って落ち着いてきたら気持ちが薄れてくるのかなと。

そうしているうちに自然と大事にされなくなってきて、なんで買ったんだっけみたいな風に思われてしまうこともある。これは実際自分も購入者側として経験があります。

何よりも大切なのは、手に取る側の人たちが、自分の中に決め手となる部分があること。言い換えれば自分なりの理由を持ってモノを手にすること。それが持ち主がそのモノをずっと大事に想い続けられる一つの基準なのではないでしょうか。

鎌田:着る人と服の良い関係をどうやったらつくれるのかは、私もずっと大事だと思っていることです。普段エシカルファッション、サステナブルファッションと呼ばれる領域で活動していると、環境負荷をどう下げるかとか、作る人の労働環境をどう改善する、どう安全性を担保するかとか、さまざまな課題に対して、いろんな側面からいろんなことを考えるんですね。

色んな手段がある中で、私が変わったら良さそうだと思うことが、その着る人と服の関係性というところなんです。いまアパレル産業で起きていることは、服を作って売って消費して手放すというサイクルがすごくスピードアップしていて、作る側も売る側も疲弊している。買う側も、買った瞬間は高揚感があるけど、長続きせずすぐ手放してしまうという状況。

サイクルのどこの人も幸福度が高まっていない。本当は、誇りをもって作られたモノが、作り手のリスペクトとともに届けられて、かつ受け取った人もその服と、自分なりの良い関係性を見出して、着るたびに嬉しい。みたいなことが実現されると、みんなそれぞれ幸せになれるなあって思います。

山脇:そうなんですよ、誇りをもって届けるって、言葉では簡単に思えますが、実行するのはやっぱり難しい。なぜかというと、1着の服をつくるというものすごい長い道のりの中では、それだけたくさんの関わる人がいるわけで、それぞれの人たちは、すごい熱い思いを持っていたとしても、それを最後製品として手に取ってもらえる人のところに届くまでキープし続けるのは結構困難なことで。

さらに組織が大きくなればなるほど、仕組みもどんどん複雑になっていってより一層難しくなっていくってしまう。あくまで一つの例えですが、農家さんが育てた野菜を畑から引っこ抜いてそのままどうぞ!みたいなのって、すごく思いが伝わりやすい。本当はそれくらいの温度感で、シンプルに届けていきたいんです、僕らも。

なかなか難しいんですが、なるべく思いをピュアに伝えられるように努めていきたいと思っています。 

6年目という原点

山脇:鎌田さんと僕ら兄弟が出会ったのが2016年。もう7年くらい経つわけですね。初めて会ったときから鎌田さんはもう今の肩書きで活動をしていて、それから自分なりにずっと活躍を追いかけてきたつもりなのですが、、、笑 どうでしょう、自身の中でスタンスやスタイルの変化は感じていますか。

鎌田:基本的には変わっていないと思っています。自分が好きな領域について、多くはファッション関連ですが、何か気になること、面白そうだなって思ったことを積極的に調べていく。現地に足も運ぶし、疑問があったら解消しようと思って動く。それをずっと繰り返している笑

ただ15年くらい活動していると、出会う人の数も範囲も増えてましたし、知識もそれなりについてきましたし、もちろんまだまだ知らないこともたくさんありますが、仕事として行っていることの重さ、深さはより増していると思ってます。

山脇:その間に社会は変化したと思いますか?

鎌田:どうなんでしょう、わからないです。社会が変化するとはどういうことなのかがよくわからなくなってきました。ただ、服の生産のあり方や消費のあり方が議論される機会は明らかに増えていて、それは一つの前進なのかもしれません。山脇さんはどうですか?

山脇:僕は今年2023年に入ってからずっと原点に戻ったような感覚でいます。

鎌田:それわかります、今年の山脇さんの、、、

山脇:フレッシュ感?

鎌田:フレッシュ感笑 でもそう、一つ一つを大切にしている感じ。

山脇:そうかもしれない。過去から継続してやってきたことについても、改めて0に立ち返って、最初のころに大事にしてた思いとかをちゃんと考えて、全員が初めて会う人、全員が初めて興味を持ってくれる人だと思って接していきたい。

服のたねはプロジェクトの性質上、終わることがないというか、2022の人たちへ完成品をお渡しする前に2023のメンバーを迎え入れることになっていて、途切れる瞬間がない。

だからこそここ数年立ち戻る機会を持てていなかったというのが正直なところです。ただ、少し個人的な話になるのですが、僕も30歳になり、大学生のときに兄弟で始めたデニムブランドがここまで続いていて、宿泊施設の運営も始め、一緒に働いてくれるメンバーも増えて自分の役割も変化し、こうなんというか、自分たちのお客さんでいてくれる人と直接触れ合うことのない時間も増えてきていました。

服のたねは、自分が身につけている服がどこでどんな風に作られているのか全く身近じゃない人に対して、服づくりへの実感を持ってもらいたい、そうすることで持つモノを大切にしてもらいたい。そんな目的でやっているのに、何か自分自身がそういった実感から遠ざかってきてしまっていたような反省があるんです。

僕にとって、僕らにとっては活動を続けていく上で実感というのは何より大切で、自分たちが自分たちの意志で、自分たちの手で物事を一つ一つ前に進められている感覚がやりがいの全てです。

だから服のたねも、まずは僕自身が、参加してくれるメンバー、服づくりに関わってくれる人、みんなに対してきちんと実感を持ってリスペクトを持って接していきたい。その点をプロジェクトの魅力だと感じてもらえたらとても嬉しいです。

鎌田:ありがとうございます。では私の思う服のたねの魅力をお話しさせてください。

私は職業柄、普段から概念的な話をすることが多いんです。サステナブルファッション、エシカルファッションって何ですか。ファッション産業の課題ってどんなことがあるんですか。それに対して企業ができること、行政ができること、生活者ができることはなんですか。っていう。

それを喋ること自体はできるんですけど、やっぱりどこまでいっても、自分が認識している問題に対して、自分が思う“こうしたらいい”っていうのを言っているだけなので、少しで間違えると正義の押し付けみたいに捉えられてしまうこともある。

だから伝えることもすごく難しいし、それって多分受け取る人も難しいと思うんですよね。誰かが思っている正義をいち参考として聞くのは良いと思うのですが、でも、いまの現状課題はこれです!みなさんこうやっていきましょう!みたいな内容の話って、そんな簡単には受け入れがたい、受け取れられないと日々感じていて。

そんな中でも、服のたねの話はいつもみんなすごいワクワク聞いてくれるんです。服のたねの話をするときってだいたい自分が育てた経験を話すのですが、まず最初にやってみたい!って言ってもらえることが多い。他の話をして、やってみたい!っていうリアクションはあんまりない笑

山脇:「世の中で起きていることを自分は今聞いているんだ」みたいな感じなのでしょうか。

鎌田:そうかもしれない。実際種を育ててみると、うまく育つときも、うまく育たないときもあって、私もどちらも経験しています。うまく育てられなかったときはもちろん悲しいんですが、でも、そのうまくいかないことを体験として得られるからプラスに捉えています。

ともかく、ファッション産業にまつわる、概念的なことをそのまま受け止めるという形ではなく、それぞれの人が自分のやってみれることがあって、その経験から、嬉しい気持ちとか残念な気持ちを得られる、という仕組み自体が素晴らしいと思っています。

山脇:服のたねについてもう一つ魅力的だなと思うことがあって、時間かかるんですよ、服づくりってやっぱり。言い訳ではなく時間がかかるけど、でも実際の服づくりの時間の長さみたいなを、リアルタイムでリアリティもって体感することもできる良い機会なんじゃないかなと思っていて。

普段の洋服はもちろん、完成されたものを購入することが当たり前だし、それは普通であるのは当然なのですが、でも一回でも、原料づくりから体験してみて、あえて長さを実感してみるっていうのも良いんじゃないかなあと。運営側目線としては、モノをお渡しするまでにたくさんの時間をもらっていて申し訳ないなという気持ちもありますが、、、。

これからの自分のモノとの付き合い方をきっと豊かにしてくれると僕は信じています。

自分なりの基準を持って

山脇:では最後に、服のたねは鎌田さんにとってどんな人に参加してほしいプロジェクトでしょうか。

鎌田:どうやって買い物したらいいか悩んでる人にぜひ参加してほしいです。

山脇:それは本当にそう思います!

鎌田:私が普段からよく聞かれる質問の一つに「どこで服買えば良いですか」というのがあります。そう思う人はぜひ参加してもらって、自分なりの基準を持ってもらえたらなあと思います。服づくりを種から体験し、作り手に触れ、生産背景を知ることで、自分がモノを購入するときの判断材料を増やしてほしいと思います。それにはもってこいの企画。

山脇:僕も自分の意見を言おうと思っていたのですが鎌田さんと一緒だったのでこれ以上言うことはありません笑

服のたねは、自分が少しでも作ることに関わったものを手にすることができる、特別なプロジェクトだと思っています。プロジェクトに参加する中で、自然と服の生産背景に触れ、興味を持っていただけたらとても嬉しいですし、まずは僕ら自身が楽しんでいくつもりですので、ぜひ!この機会に参加してください!

鎌田:ありがとうございました!

鎌田安里紗(かまだ ありさ)
「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人unistepsの共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」、衣服を取り巻くモヤモヤについてともに学び考えるプラットフォーム「Honest Closet」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。

 

Photo by @taroro66